森村誠一『鍵のかかる棺』(角川文庫)★★★☆☆ | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

森村誠一『鍵のかかる棺』(角川文庫)★★★☆☆

 

 

タイトルはいかにも森村的で大げさなのだが、客室を「棺」と見て取る彼の怨念めいた思いは、ホテルマン時代に培われたものだろう。

 

本書はその経験をフルに活かし、「これでホテルについては全て書き尽した」というだけあり、ホテルを舞台として飽かせぬ人間群像劇となっている。とはいえ、ここで「全て書き尽した」というのは、本編にはほとんど無関係な、ホテルで起こった小話みたいなトラブルのことなんだが。

 

さて冒頭のA国大物が秘密裏に来日、同日、そのホテルに宿泊した美女が熊谷某所で死体となって発見されるときたら、両者に繋がりがあるのは当たり前で、この点に期待するの筋違い。

 

それよりも、これまた同じ日にホテルの外観を撮影したのち、理不尽に殺害されたジャーナリストからネガを託されたホテルマンと、その友人の活躍がなかなか読ませる。もちろん、ネガをめぐる醜悪な陰謀に巻き込まれるわけだ。

 

ただし二人がただ巻き込まれたというだけでなく、ホテルへの怨恨や被害者への思慕といったように、首を突っ込む理由がしっかりとしているのは、さすが、ありきたりな話をしっかりと読ませる手管というべきだろう。

 

残念ながら、全体を貫く謎というものの魅力は薄く、あくまで二人のドタバタにも似た活躍、ホテルの経営層の争い、宿泊客の奇妙なトラブルといったサイドメニューで読ませるタイプの一篇である。ホテルをネタにした密室殺人のようなガチの本格ではないことは、覚悟する必要がある。

 

★★★☆☆