ディック・フランシス『骨折』(ハヤカワ文庫)★★★☆☆ | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

ディック・フランシス『骨折』(ハヤカワ文庫)★★★☆☆

 

 

競馬シリーズ10作目。

 

さる大金持ちの息子をGIジョッキーにしろと、いきなり厩舎オーナーが拉致監禁されるという、コルトレーンのLive in Japanのマイ・フェイバリット・シングスみたいな悠長さとは真逆のいきなりな冒頭は好感度大。

 

そういえば、トレーンのライブ・イン・ジャパンの同曲は、彼が幾度となく演奏した同曲のなかでもフリー色が強くあまり相手にされていないような感もあるが、冒頭15分のジミー・ギャリソンの眠気を誘うベースソロに続くトレーンの10分に及ぶ執拗な前段を耐え忍び、ようやく開示されるテーマの清冽さ、ここだけを何度も聴きたくなるような心ときめく瞬間である。30年聴いているが、想いは変わらない。

 

…さて、解放されたオーナーのもとにどうしようもないクソガキジョッキーが訪れるわけで、彼をいかにして追い出すかが眼目かと思いきや、実は彼とのあいだに芽生える父子の情にも似た絆の醸成が読みどころ。

 

フランシスの競馬シリーズは、競馬をダシにして感情やプライドといったところをうまく表現するところに妙味があり、冷戦後の冒険小説のひとつの型を先取りしているといえるのだが、本書もアクションが低調ながらもクソガキ成長物語として悪くない。

 

とはいえあくまで異色作として読めるという程度で、決して褒められたものではない。ここだけの話だが、競馬シリーズって意外にあたりが少ないのだ。

 

★★★☆☆

 

1st.version, 1971