「人形はなぜ殺される」?:高木彬光『人形はなぜ殺される』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

「人形はなぜ殺される」?:高木彬光『人形はなぜ殺される』



高木 彬光
人形はなぜ殺される』(ハルキ文庫)

発見された首なし死体に添えられた人形の首。それは衆人環視のなかで忽然と消えた奇術用人形のものだった。名探偵神津恭介に提示される殺人予告。連続殺人の前に必ず発生する「人形殺人」。奇術の世界を舞台にした面妖な雰囲気のなかで、作者は読者に挑戦する。「人形はなぜ殺される」?

世界探偵小説史上、これほどまでにすばらしいタイトルは存在しないといってよい。登場人物のほとんどが奇術師であることから生み出される異様な雰囲気のなかで、作者のの挑戦「人形はなぜ殺される」に首をひねりながら神津によって真相へと導かれる読者は、ことのあまりの意外さに絶叫し、そして震撼するだろう。

周到に張りめぐらされた伏線、舞台装置による異常なまでの高揚感、そして名探偵と犯人の対決。何よりもタイトルがすべてを物語っていること。これほどまでに作品の核を美しく提示しえたタイトルを、わたしは知らない。

世上では『刺青殺人事件』(ハルキ文庫)を彬光の代表作とみなしているようだが、とんでもない。本書こそ彼の代表作であり、さらには日本を代表する本格探小である。ミスディレクションの極致、美にまで到達した精緻な構成。もはや何もいうことはあるまい。ただただ無言で本書を突きつけるのみである。

初版:1955・11 講談社
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いつもご愛読くださっているtakam16さんが、★五つものを待っているというので、記憶に刻まれた歴史的傑作を紹介した次第。