「説明しよう」:和久峻三『時の剣』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

「説明しよう」:和久峻三『時の剣』



和久 峻三
時の剣』(講談社文庫)

強姦殺人の時効寸前で逮捕された男をめぐって、相も変らぬ偽装痴呆老人・猪狩文助が法廷闘争を繰り広げる。

本書はタイトルに示されているように、「時効」をどのように解釈するかがひとつのポイントになりつつも、それに加えて証拠物件の採用をめぐる議論で盛り上がる(昨日メイスンもので証拠物件がらみの傑作があると書いたら、奇しくもこんなのに当たったわけだが、ガードナーのそれとはまったくレベルが違うことを申し添えておく)。

特に後者は、現場に残された血痕の写真について三回も鑑定が行われるという錯綜ぶりで、この議論だけで半分近くのページを裂き、それなりに見せ場を作っている。

本書では事件そのものよりも、こういった法廷におけるテクニカルな部分に焦点がおかれ、真相は一応法廷内で明かになるにしてもさほど興味をひくものではない。

とはいえ、唐突に話者から「説明しよう」といわんばかりに刑法の注釈が加えられるあたり、小説としてはまったくもって不細工なのだがなかなか親切な試みといえ、啓蒙探小としてはそれなりな作品に仕上がっている。まあ、啓蒙の部分を除けば凡庸な作品であることは間違いないのだが。

初版:1981・7 角川文庫
★★★☆☆