乱歩賞候補作だがね:中町信『自動車教習所殺人事件』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

乱歩賞候補作だがね:中町信『自動車教習所殺人事件』

中町 信『自動車教習所殺人事件』(徳間文庫)

本作を含めて、3度乱歩賞候補作に挙げられている中町だが、とにかくタイトルの地味さというか、お手軽さを裏切るようなトリッキーな作品をよく書いている。

冒頭でよくわからない抽象的な光景が描かれ、それがラストにいたって得心にいたるという、土屋隆夫にも見られるパターンを得意とするが、その引っ張り方、読者の騙くらかし方は相当にあこぎだ。もちろんいい意味の方が強いわけだが。

しかし本書は、とにかく実直なミステリ。自動車教習所での密室殺人のトリックが先にわかり、その後に容疑者のアリバイ崩しに雪崩れ込むという考えようによっては豪華な構成なのだが、細部のあまりのいい加減さが途中で嫌になってしまう。

前半が密室を核としたwhodunit(=who done it?)だが、それもあまりにくだらなく(森村誠一も評価の高い某作品で類似トリックを使用していたが)、さらによくないことに敢えなく犯人も指摘され、これでは後半のアリバイ崩しも盛り上がらないことは必定である。

しかも密室殺人の状況があまりにもありきたりなのだ。いくら本格だからといって、「密室」「アリバイ」が登場すればよいというわけではない(ちなみに時折トラベル系ミステリ作家の書く「本格」で、20世紀初頭かと見間違ごうばかりの旧態依然としたトリックを見かけることがあるが、あれは読者を馬鹿にしているのだろうか)。

とてもではないが乱歩賞の候補作とは思えない。中町の水準からいったら下位の出来だ。やはり『新人文学賞殺人事件』(徳間文庫)のような訳のわからない難解な作品に、中町の本領はあるんだろうな。

初版:1980年2月 トクマ・ノベルス
★★☆☆☆