山田正紀『女囮捜査官3 聴覚』(幻冬舎文庫) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

山田正紀『女囮捜査官3 聴覚』(幻冬舎文庫)



山田正紀女囮捜査官―五感推理シリーズ〈3〉聴覚

希代のストーリテリングと論理、そしてそれを支える異様な世界観で法月綸太郎などに絶賛され、幻冬舎からめでたく覆刻された「女囮捜査官」シリーズの第3作。しかし明らかに前二作よりつまらない。どこに重心を置いているのか今ひとつ明確ではないからだ。

警察の官僚制化、名簿問題、政治献金などの体制批判に加え、前作の事件で傷ついた志穂の二重人格による犯罪の可能性とそれに関わる誘拐事件とあまりにも手広い。誘拐だけに絞って書けばもっと良かったのではないか。

二重人格というギミックと誘拐を絡めたいわばサイコ・キッドナップものを書きたかったのかもしれないが、どう考えても失敗。よく考えれば、誰が犯行を行う可能性を一番もってたかはすぐにわかってしまうのだ。しかも場面展開の恐ろしいまでの入れ替えにより上記の試みを行おうとしているが、何がなにやらよくわからんというのが正直なところ。

まあ意欲に満ち溢れたのはいいが、時々こけてしまう山田らしい作品。ちなみにシリーズでは、高速道路にばら撒かれた女性のバラバラ死体をめぐって論理と「感覚」が錯綜する2作目の『女囮捜査官〈2〉視覚』が最も優れていると思う。

初版:1996年6月 トクマ・ノベルス
★★☆☆☆