J・ディーヴァー『悪魔の涙』:警察小説本来の魅力と、文書鑑定人なる特殊な証拠発掘能力をもつ職業
ジェフリー・ディーヴァー
悪魔の涙 (文春文庫)
ワシントンの地下鉄駅で銃乱射による無差別殺人が発生し、市長宛に2000万ドルを要求する脅迫状が届けられる。市民の身代金を払わねば4時間ごとに同様の事件を起こすという。唯一の手がかりは手書きの脅迫状のみ。そこで五里霧中の捜査陣は、文書鑑定のスペシャリストに応援を要請するといった感じの物語である。
市民の身代金というアイディアは西村京太郎も何度か使っていたが、本書のおもしろみはそういったところではなく、文書鑑定人なる見慣れぬ職業のさまと、彼とともに警察がいかに犯人を追い詰めてゆくかという点にある。
巷で激賞されている異様なまでにひねりまくるラスト1割での急展開よりも、証拠をいくたびとなく点検しアイディアを出し合い、新たな証拠を求めて歩き回るという警察小説本来の魅力を、文書鑑定人という特殊な証拠発掘能力をもつ職業を核にしつつうまく踏襲した点に、本書の最大の売りがあるといってよい。
したがって、主人公である鑑定人の家族関係や、いかにも芽生えそうな捜査官との「ロマンス」といった部分はまったくどうでもよく、これに関しては幅広い読者層に色目を使いすぎて冗長に流れた感が否めない。
しかし前述したように証拠を見つけ確認しに出かけ、小イベント発生といった警察小説としての要の部分は決して悪くない。ディーヴァー初読ではあったが、他作品も読んでみたい。
Jeffery Deaver
The Devil's Teardrop, 1999
★★★★☆