『気ちがい(サイコ)』の原作者ではあるが:ロバート・ブロック『楽しい悪夢』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

『気ちがい(サイコ)』の原作者ではあるが:ロバート・ブロック『楽しい悪夢』



ロバート・ブロック, 仁賀 克雄
楽しい悪夢』(ハヤカワ文庫NF)

モーテル経営者を悪夢のどん底に陥れたヒッチコックの名作『サイコ』の原作者として名高いブロックの第二短編集。というか、そのようにのみ語られることが多い作家なのだが、ラブクラフトとの文通をつうじて作家を目指すようになり、『ウィアード・テールズ(Weird Tales)』からその生活を開始しているのだから、『サイコ』云々だけで語られるのはちょっと違う。

確かに本書の「スタインウェイ氏」にはすでに『サイコ』のアイディアが含まれているともいえるが、どちらかというと「魔法使いの弟子」での残酷さ、そう、ヒッチコックではなくハーシェル・ゴードン・ルイスのような悪趣味と嫌な感じこそが彼の持ち味かと思われる。逆にいうと『サイコ』はヒッチコックとアンソニー・パーキンスの素晴らしさにより、ブロックのそれとは異なる方向に昇華したともいえる。

かといってラブクラフト・サークルのような雰囲気とも少々異なり、やはり嫌な感じと黒さ、落ちのひねりで読ませる短編作家といえるだろう。しかしこの類の作家やら映画に親しんでいる嫌な人間にとっては、彼の落ちの強烈さには少々欠けるところがあるかと。ちなみにどんな人間が読んでも悲鳴をあげざるを得ない最高に嫌な短編は、ジョルジュ・ランジュランの諸作品だと断言しておく。

どうでもいいが彼はドイツ系ユダヤ人であり、ドイツにて生を受けたならばほぼ間違いなく収容所送りの憂き目にあったはずである。それこそ本書所収の「悪魔の落し子」のようなことに。

★★★☆☆

Robert Bloch
Pleasant Dreams

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