ギデオン・フェルを健康的にして衒学癖をなくすと:J・J・マリック『ギデオンの一日』
J・J・マリック
『ギデオンの一日 (1958年) Hayakawa Pocket Mystery 407』(HPB)
近年、警察小説の元祖であるローレンス・トリートがようやく翻訳されたが、このギデオンものも典型的な警察小説で、その第一作である本書は、かのジョン・フォードが映画化している(『ギデオン』)。
さて、警察小説といっても、たとえばコリン・デクスターやP・D・ジェイムズのように名探偵役=警官であるパターンと、特に探偵は存在せず警官が一丸となって事件に当たっていくエド・マクベインなどのタイプにわかれるが──ちなみに前者をイギリス型、後者はアメリカ型警察小説と区分することが多い──本書はギデオンを思い切り中心に出しているにせよ、ロンドンの多発する犯罪と、それに対応するヤードのてんやわんや加減をスナップショットで描いていくところから見てもまあアメリカ型警察小説といえる。
本書は複数の事件が並行して展開しラストになってひとつに収斂、そして大団円を迎えるというモデュラー型なんだが、ギデオンの部下の汚職とその不可解な死、着々と計画進行する宝石強盗、幼女連続殺人、老婆殺し、ギャングの内ゲバなどといったとんでもない数の事件を並べ、挙句それらがすべて解決されるわけではないというカタルシスの欠片もない一編である。しかもこれがタイトルどおり「一日」の出来事であるから恐れ入った。
ギデオンはギデオン・フェルを健康的にして衒学癖をなくし、推理力を大幅に削除したような人物なのだが、世で絶賛されるような魅力を感じることは最後までなかった。おそらくディクタホンで執筆されたであろう文体も、特に読みでがあるわけではない。
今回マリックは初なので総合的な評価は控えるが、「一日」というスパンのなかでさほど緊張感を出せていない本書を読む限り、ほかのもあまり期待はできないかなと。
★★☆☆☆
J. J. Marric
Gideon's Day, 1955
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