八原博通にえらく辛い:半藤 一利『指揮官と参謀―コンビの研究』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

八原博通にえらく辛い:半藤 一利『指揮官と参謀―コンビの研究』



半藤 一利
指揮官と参謀―コンビの研究』 (文春文庫)

「指揮官と参謀」というカップリングを見てゆき、太平洋戦争前後の軍の人間模様を読んでいこうといったもので、帯にあるような「経営者の条件」を追求する大それたものではない。

どういった面々がとりあげられているかを下に書いておいたが、岡敬純と石川信吾が少々もの珍しいかといった程度で、あとはどこかで読んだような話で一杯である。

いうまでもなく作者は陸軍嫌いであり、本書でもそのあたりは存分に伺えるのだが、やはり牟田口と河辺のくだりなどを読んでいると腸が煮えくりかえる思いに駆られ、海軍も別段すばらしいとはいわないが、こういったごみが何万人もの命をあずかる位置に立ってられた陸軍には嫌悪が先行する。かといって海軍も石川のような大局的な視野が欠落した人物が、その戦略決定を牛耳っていたのを見ると、大差はないか。

注意しなければならないのは、たとえば冨永恭次のごとく単に個々が愚物であるケースと、年功序列や点数主義といった弊によりその能力を発揮できないという組織的な点が絡み合っていることだ。まあどのみちこういった組織、日露戦争のメンタリティのまま太平洋戦争を戦ったような連中に、自らの命運をあずけざるをえなかった日本人の悲惨さに思い至る。しかし軍をけしかけ増長させたのが、世論であったことも忘れてはならないだろう。自分らの祖父ちゃんや親父が命を賭け奪った満州というどこか狡すからい思いがその基礎にあるんじゃないかと、反省するのも大事かもしれない。

ちなみに沖縄戦での作戦主任参謀・八原博通に対する評価があまりに冷酷で驚愕した。半藤曰く「神経質であり、陰気で女性的ですらあった」と。いままで現地の実態をろくに見ない参謀本部に対し、徹底して合理的な戦術を組み立てていった極めて優秀な参謀といったイメージがあり、このような感想は類書でも大差ないことが多く、いささか意外であった。少々気になるので、彼の回想である『沖縄決戦』を読み出したところだ。

板垣征四郎と石原莞爾
永田鉄山と小畑敏四郎
河辺正三と牟田口廉也
服部卓四郎と辻政信
岡敬純と石川信吾
永野修身と杉山元
山本五十六と黒島亀人
南雲忠一と草鹿龍之介
東条英機と嶋田繁太郎
小沢治三郎と栗田健男
山下奉文と武藤章
牛島満と長勇
米内光政と井上成美
天皇と大元帥

初出:1986・10-1987・10『オール読物』
★★★☆☆
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