脱獄・タイムリミットをここまで地味にするとは:ベン・ベンスン『脱獄九時間目』(創元推理文庫) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

脱獄・タイムリミットをここまで地味にするとは:ベン・ベンスン『脱獄九時間目』(創元推理文庫)



ベン・ベンソン
脱獄九時間目』(創元推理文庫)

ベン・ベンスンといえば創元推理文庫の中級マニアあたりが手を出す作家で、全19冊の長編のうち5冊ばかりが創元で翻訳されている。比較的入手難易度は低く、さらに数年前になぜか復刊されたので、手に取ったひともいるかもしれない。

ジャンルでいえば警察小説の書き手で、マサチューセッツ州警察刑事部長ウェイド・パリスがシリーズキャラである。もともと警察小説で当てたことがろくになく(たとえばヒラリー・ウォーをおもしろいと思ったことがない)、さらにベンスンは地味だ地味だと聞いていたので手を出しかねていたが、とりあえずベンスンの最高傑作といわれている本書を読み、読後感はといえば、本当に地味だなと。

本書はタイトルどおり脱獄もので、脱獄発生から落着するまでの約半日を、看守を盾に監獄内に籠城する脱獄犯たちとパリスらのやり取りを中心に描いていくんで、とにかく動きがない。

何でもベンスンは登場人物たちの心理を追及していくところに妙味があるようで、確かにステレオタイプな犯罪者像を描いてそれなりのものはあるが、「明日はきっと真っ暗だ」と物語がぶつりと切れるあたり嫌な後味を残すジョゼ・ジョバンニの脱獄もの『』のような重っ苦しい迫力もなく、脱獄およびタイムリミットというサスペンスを扱いながらこれだけ動きがない地味な作品に仕上げたベンスンの手腕はなかなかのものである。

一気に読ませる力もないが、脱獄の展開が気になり普通に読めるという意味では悪くないのかもしれない。

★★★☆☆


Ben Benson
The Ninth Hour, Bantam, 1957(first Published 1956)
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