この写真は何ですか?:家永三郎『太平洋戦争』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

この写真は何ですか?:家永三郎『太平洋戦争』



家永 三郎
太平洋戦争』(岩波現代文庫)

戦後のある時期まで、かなりの影響力をもっていた家永三郎の代表作のひとつといえる一編。しかし内容はかなりお寒い。普通の人でも普通に読むことのできる先行研究やら回想の類を寄せ集め、それを共産趣味で味付けしたかのようなものである。あまりに熱のない叙述と資料の羅列が続き、正直このひとは単に受け狙いで旧軍と日本帝国を批判しているだけではないかと思ったくらいだ。「誰でも見られる史料をなるべく広く利用するということに主力を注」いだということだが、誰でも史料に当たり点検しうるという話のまえに、本書にはまず魅力がない。

実は本書を現代文庫版ではなく、「岩波日本歴史叢書」の一冊として昭和43年=1968に上梓された単行本の初版で読んだのだが、そのなかに以下のような写真が掲載されている。

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「著者は台湾領有直後に台湾に赴任した陸軍軍人の遺品から、おそらく捕虜となった反乱台湾人であろう弁髪の二人を日本の将兵が斬首している実景を撮影した写真を発見した」。
「この写真は元陸軍少将故家永直太郎の遺品中から発見されたもので、同人の履歴をみると、一八九五年陸軍士官学校卒業直後、陸軍歩兵少尉に任ぜられて台湾に赴任しているから、この写真がその在任中に入手したものであることは明白で、本文で述べたような事実の実写であることを疑う余地はないと信ずる」。

とのことだが、いうまでもなく家永直太郎とは作者の父であり、陸大17期卒、南次郎や林銑十郎、渡辺錠太郎などの同期。その遺品から発見されたという写真なわけだが、ここからすぐさま「事実の活写」と断言する安直さはいかがなものだろうか。

単に家永が「台湾領有直後」、というか下関条約締結直後に台湾に赴任し、遺品として上記のような写真が存在したという事実のみが確かなことである。

わたしは日本軍がこのような行為を行ったことはまず間違いないと思っている。旧軍、特に日本陸軍の思想もしくは思考は、そういった行為を十分に許容し、ことによっては推奨するものであったと理解しているからだ。

しかしながら、家永のように父の遺品からただそれっぽい写真が出てきただけで、これを「事実の活写」という態度には首を傾げざるをえない。軍装など、それなりな検証を行ってから、こういったものは掲載すべきではないか。

前々から家永に関しては胡散臭いものを感じていたが、本書でいっそう彼への猜疑心が高まった。戦後歴史学を学ぶという意味では本書も意義があるかもしれないが、これで「太平洋戦争」云々というのは非常に危険だろう。

はっきりといって現代文庫に落ちる価値はないし、読む価値もない。これならば井上清のほうが、熱量も戦闘力も遥かに上だと思う。

★★☆☆☆
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