ミッドウェーにおいて戦局は転換したか:佐藤和正『太平洋海戦』(講談社) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

ミッドウェーにおいて戦局は転換したか:佐藤和正『太平洋海戦』(講談社)

佐藤 和正
太平洋海戦1 進攻篇』(講談社)
太平洋海戦2 激闘篇』(講談社)
太平洋海戦3 決戦篇』(講談社)

すでに定評のある作品で、太平洋戦争における海戦の展開を知るのにはもちろんのこと、それが日米のいかなる思惑により、どのような過程を経た結果なのかまでも丁寧に押さえ、海軍から見た太平洋戦争入門としても秀逸である。

作者はミッドウェーにおける戦局の転換という一般的な観点を否定し、むしろガダルカナルをめぐる攻防にこそ日本海軍没落の契機があったとする。ミッドウェーにおいて空母を喪失したことは確かだが、まだまだ兵員の士気は高く、人的資源の絶望的な喪失という事態とはいい難いというのがその理由である。むしろ問題は相継ぐ勝利による驕りと弛緩であり、具体的な細かい点は省略するが、この致命的な海軍の性格がガダルカナル近辺での攻防に影を落とすことになり、ここから本格的な凋落がはじまるという。

しかし素直に考えて、空母4隻を喪失した時点で、その後に大鳳や雲龍といった空母を生産したにしても勝敗はほぼ決まっていたように思える。基地航空隊の無理やりな使用が、人的資源のどうしようもない消耗に結びついたことはいうまでもない。やはり国力を考えるとミッドウェーは痛すぎるのが正直なところであろう。

まあこういったことは、色々と読んで考えてもらえばよいと思うが、本書はさらに海戦ごとに各船舶がいかなる針路を取り、どこで攻撃をしたか或いは受けたか、そして沈没したかといった合戦図が付されており、特に雷撃と砲撃の区別までしてあるのは実に便利である。もしかしたら『戦史叢書』のそれをそのまま引っ張ってきただけかもしれないが、とにかく重宝する代物である。

絶版のまま未だに文庫落ちしないのが不思議なくらいの一編なのだが、古書価も落ち着いていることだし、太平洋戦争に興味のある人ならば手元に置いて損はないといえる。

ちなみに軽巡と重巡を間違えるといった単純なミスが何箇所かあったことを付記しておく。

★★★★☆