尊属殺人とはなにか:和久峻三『誤判』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

尊属殺人とはなにか:和久峻三『誤判』



和久 峻三
誤判―私は殺していない』(講談社文庫)

長期間、自分を陵辱してきた義父を殺害したとして、尊属殺人罪にて二十数年間獄中に繋がれた女性の再審を求めて、「法廷荒らし」猪狩文助が立ち上がる。

本書の中心テーマは「尊属殺人罪」適用の可否にある。探小的に何か仰天の仕掛けがあるわけではないのだが、猪狩の法廷闘争に引っ掻き回されて、主席裁判長と陪席裁判官の合議がことあるごとに行われるのはなかなか面白い。法廷ものの中心は基本的に証人をめぐって展開するのであり、本書のように裁判官同士の合議を読ませる作品というのは案外珍しいのだ。

とりあえずカバー裏の紹介文にあるような「傑作!」とは口が裂けてもいえないが、尊属殺人に関する知識が本書で深まることは間違いなく、和久作品の特徴のひとつである啓蒙の側面をよく出している。和久を学生に読ませる法学の指導教官が多いという噂も、意外に本当かもしれない。

初版:1982・11 カドカワノベルス
★★★☆☆
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