なんだ、これ:和久峻三『密室法廷』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

なんだ、これ:和久峻三『密室法廷』

和久 峻三『密室法廷』(講談社文庫)

旧家の美人弁護士が自室で銃撃される。容疑者は彼女の夫で、事件発見時は泥酔状態で被害者の部屋にいた。凶器には彼の指紋が残されておりシンプルな事件と思われたが、意外にも被害者が夫の弁護を病床から買って出る、といったお話。

本書は九割がたが法廷シーンで占められ、その手のひとにはたまらない一冊といえるが、いまひとつ事件の核となる謎が明確にならない。つまり

夫が妻を撃ったのか。それならばなぜか
或いは夫以外の第三者が銃撃したのか。それならばなぜか


が通常ならば謎の中心となるはずなのだが、本書ではそれに加えて、

被害者の妻は、なぜ夫の弁護を引き受けたのか

という謎が次第に大きく浮かび上がってくる。双方ともにもちろんラストで真相が明かされるのだが、一言で感想をいうならば「なんだ、そりゃ」である。

おそらく法廷ものでこのようなパターンは史上はじめてであると思うが、『まんがはじめて物語』じゃあるまいし、一番乗りだから何でもいいというわけではない。ほとんどバカミス一歩手前なのだが、このネタをシリアスではなくブラックに使えば、なかなか面白い雰囲気になったのではないだろうか。

さすがに法廷シーンは手馴れたものでスラスラと読めるが、真相の解明シーンがいきなり話者によるナレーションで展開されるのには驚愕した。確かに関係者一同を暖炉があるリビングにでも集めて、もったいぶった説明をぶっこけとはいわないが、これほど手を抜かれては絶句する以外にない。一応「講談社創業80周年記念推理特別書き下ろしシリーズ」なのだから、もう少しやりようがあっただろうに。何やら気負ったタイトルの割りには、脱力ものの一冊であった。

初版:1990・6 講談社
★★★☆☆
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